「お姉ちゃん!」
成田空港のロビーに元気な声が響き渡る。
「佳子!」
私は佳子の元に駆けよって、小さな体を抱きしめた。
「お姉ちゃん。私、歩けるようになったよ。みんなと同じように何でもできるよ」
嬉しそうに笑う佳子。
父や母、そして夕夏の目に涙が浮かんだ。
もちろん私もだ。
「うん。よく頑張ったね」
ヨシヨシと頭を撫でると、佳子は私を真っ直ぐに見上げた。
「あのね。全部聞いたよ。お姉ちゃんのおかげだってこと。それでね、今度は私からお姉ちゃんにサプラ」
佳子はそこで言葉を止めながら、周りをキョロキョロと見回し始めた。
「あれ? おかしいな。先に着いてるはずなんだけどな」
「どうしたの、佳子? 誰か来るの?」
「あっ! 来た来た!」
「えっ?」
佳子の視線を辿るように振り向くと、見覚えのある顔が視界に飛び込んできた。
「えっ! 樹さん!?」
そう。
私を見つめながら一直線に歩いてくるのは、まぎれもなく樹さんだった。
どうしてここに?
もしかして、私はフラれるのだろうか?
心臓がバクバクとあり得ない早さで鼓動する。
「菜子」
5メートルの距離まで近づいた時、樹さんが私の名を呼んだ。
けれど、次の瞬間、突然樹さんの周りを芸能リポーター達が取り囲んだ。
「宮内副社長! 西宮麗華さんとの熱愛報道についてお聞かせ下さい!」
「お二人は幼なじみで、西宮麗華さんから告白したそうですよね?」
「婚約したという噂は本当ですか?」
しつこく詰め寄るリポーター達に、樹さんは大きなため息を返す。
「すみませんが、私の口からは何もお答えできません。後から彼女が来ますので、直接本人にきいてみてください」
それだけ言うと、樹さんは再び足を踏み出した。
「待って下さい!!」
大きな声を上げながらリポーターの一人が樹さんのジャケットを強く引いた。
その拍子に、樹さんのポケットからジュエリーケースのような箱がコロンと落ちた。
「これって婚約指輪ですか!? これは西宮麗華さんの為に用意したものでしょうか?」
リポーターが転がった箱を拾い上げて、興奮した様子で声を上げる。
と、その時だった。
「全然違うから! その人は私のお姉ちゃんの恋人だし、その指輪だってお姉ちゃんにプロポーズする為に用意したものなんだから!」
佳子が叫ぶように言ったのだ。
リポーター達が一斉に振り返る。
「ちょっと……佳子! 何言ってるの」
そう呟いた瞬間、今度は私の方へとカメラが向けられた。