「ちょっと、待ちなさいよ!」

東吾に後始末を任せて、ホテルの駐車場へと降りた時だった。

ヒステリックな声を上げながら、早乙女彩乃が追いかけてきた。

そうだ。
まだ、もう一仕事残っていたんだった。

俺は足を止め振り返る。

「何か?」

「何かじゃないわよ! こんなのあんまりじゃないの! 私はあなたのことを本気で愛していたのよ?」

「よくいいますね。あなたも裏じゃ、好き放題やっていたじゃないですか。婚約中にも関わらずクラブやバーで男をナンパして……いったい何人の男と関係を持ちました? 私が知らないとでも思っていましたか?」

そう。
これが早乙女彩乃の裏の顔だ。

こちらにも彼女を愛していないという負い目はあったが、彼女の不貞行為も相当なものだった。

冷めた目で見下ろすと、早乙女彩乃は開き直った態度で言い返してきた。

「仕方ないでしょ。私、セックス大好きなんだから。父との約束を律義に守って全然手を出してこなかったあんたが悪いのよ。それに、あんただって、あの女秘書に心の浮気をしてたじゃないの!」

彼女はまくし立てながら俺を睨む。

「心の浮気ね。まあ、そこは否定しませんけど」

「ほら! 体の浮気より心の浮気の方が重罪よ! あんたには慰謝料請求してやるんだから」

「お好きにどうぞ。でも、そんな時間あるのかな? そろそろあなたには逮捕状が出る頃だと思いますが」

「えっ…」

彼女はギクリとした顔で俺を見上げた。

「今朝警察に、ある暴行未遂事件の情報提供があったらしいですよ? って、言ってるそばからお迎えが来たみたいですね」

タイミングを見計らったかのように、パトカーがサイレンを鳴らしながら駐車場へと入ってきた。

「ちょっと、何よ。私は何も知らないわよ!」

逃げ出そうとする彼女の腕を後ろからガシッと掴む。

「逃がさねえよ。おまえには自分の犯した罪をしっかり償ってもらうからな」

俺は怯える彼女の耳元で、恨みを込めて告げたのだった。