「昨日はすみませんでした!」

月曜日の朝、私は樹さんに向かって頭を下げた。

「ん? 何のこと?」

樹さんが仕事の手を止め、私をポカンと見上げる。

「で…電話のことです。彩乃さん、怒ってませんでしたか?」

そこまで言ってもピンとこない様子。

「電話? おまえ、昨日、電話くれてたのか?」

どうやら彩乃さんからは何も聞いていないようだ。 

彩乃さんも勝手に電話に出てしまった手前、言い出し辛かったのだろうか。

それなら黙っていた方がいいのかもしれない。

「い、いえ…。やっぱり今のは忘れて下さい」

「は? 何だよ、それ」

当然ながら顔をしかめる樹さん。
私は慌てて次の話題に切り替える。

「そう言えば、樹さん。佳子のお見舞いに来てくれたそうですね」

「あ~そうそう。親父のとこに顔出したついでにな」

「それで、あの………佳子の為に募金活動をしてくれてるって聞いたんですけど。本当ですか?」

私の質問に樹さんは「ああ」と頷いた。

「その件な。募金活動っていうほど大したものじゃないんだけど、知り合いに寄付を呼びかけてるんだよ。『玉の輿』を狙うよりも、こっちの方がおまえだっていいだろ?」

樹さんはパソコンを閉じながら得意げに言った。