「樹さん。今日ってどんなパーティーなんですか?」

ホテルのエントランスをくぐり抜けたところで、私はそんな質問を口にした。

内容については詳しく聞かされていなかったからだ。

「ああ、なんだっけかな………確か、どっかの会長の誕生パーティーだったと思うけど。まあ、会場に着けば分かるだろ」

「何だか凄く適当ですけど、くれぐれも主役の方の顔だけは間違えないで下さいね」

普段の仕事は完璧にこなすけれど、前科があるだけに心配になる。

「は? 俺がそんなドジ踏むと思うか?」

「そんなドジを踏んじゃったから、私をこうして連れて来るハメになったんじゃないんですか?」

「……おまえ、だんだん東吾に似てきたな」

樹さんは私を見ながら苦笑いを浮かべる。

「あの日は早めに待ち合わせ場所に行って、スマホで相手の顔を確認するつもりだったんだよ。なのに、おまえがこけたりなんかするから」

「言い訳は男らしくないですよ~副社長」

樹さんの耳もとで茶化すように言うとジロリと睨まれた。

「もういいから、よそ見すんな。この前、この辺の段差で転んだんだろ? ちゃんと足元を」

と、そこで樹さんはピタリと足を止めた。
そして、目を凝らしながら私の足元をジッと見つめる。