樹さんはきっと下品なものが嫌いなのだろう。
そんなつもりはなかったけれど、不快な思いをさせてしまったようで心苦しい。

「ご期待に添えなくてすみませんでした。せっかく買って頂いたのに」

シュンとする私を見て、樹さんがハッとした顔になる。

「いや、違う。菜子があまりにも可愛いから心配になったんだよ。でも、まあ…俺のそばにいれば問題ないよな。今日は俺から離れるなよ」

今度は甘いセリフを囁きながら、私を自分の胸へと抱き寄せた。

「ちょ、ちょっと、樹さん!」

私の心臓はバクバクと鳴り出した。

「ダメですよ、樹さん! こんなことしたら、また中谷さんに誤解されちゃいますよ」

私は慌てて樹さんから離れる。
こんなことをされたら、私だって誤解してしまう。

「ああ、ごめん。おまえが犬みたいにしょんぼりした顔するから。ついな」

樹さんは私の頭をヨシヨシと撫でながら、呑気に笑ったのだった。

犬か……。
もはや私は樹さんにとってペットのような存在になっていたようだ。

「それじゃ、行くか。おまえの婿探しに」
 
樹さんの手が私からスッと離れ、急に現実へと引き戻された。

「はい。よろしくお願いします」

樹さんへの想いは心の奥へと閉じ込めて、私は笑顔で返したのだった。