「あの………昔の男の話って何のことですか?」

「は? 今、おまえが話そうとしてたんだろ? 昔の男の話を」

「まさか………。昔の男の話なんかする訳ないじゃないですか」

自慢じゃないけれど、私には『昔の男』と呼べる人なんて一人もいない。

家が貧乏だったせいか、デートやお洒落にかけるお金が勿体ないと感じてしまい、恋愛に興味を持てなかったのだ。

「じゃあ、いったい何なんだよ。おまえが男物の下着に詳しい理由っていうのは」

樹さんがぶっきらぼうに言う。

「だから、それは。私の前のバイト先がコンビニだったからですよ。何かマズかったですか?」

「…………………」

車内は不自然な沈黙が続く。
運転席の方を見ると、樹さんの横顔がなぜか真っ赤に染まっていた。

「あの、樹さん?」

「なに?」

「なんか顔が赤いですけど……どうかされましたか?」

「別に………気のせいだろ」

樹さんはちょっとバツが悪そうに小さく呟いた。

「そうですか?……でも、なんかさっきも怒ってたし」

「悪かった。全部俺が悪かったから、さっきの件はもう忘れろ」

「え………ちょっと意味がよく分から」

「いいんだよ。分からなくて」

さっさと話を切り上げてしまった樹さん。
そんな彼の不自然な言動に私は首を傾げながら、外の景色へと視線を移したのだった。