紅北邸西館。

東西南北と四つある邸の各棟の中でもっとも高く、もっとも奥に位置しており、蔦が這い黒ずんだ石を積み上げられてできたそれは、館というより塔と呼ぶべき様相をしている。

実際、塔の天辺には巨大な時計が二面についており、片方は中庭を、そしてもう片方は湖の方を見据えている。

3時、6時、9時、12時には低く荘厳な音色で住人たちに時刻を知らせるのであった。

ところで、西館には住人たちの間で呼称がついている。

曰く、『バベルの図書塔』。

入り口から時計の機関室までは螺旋階段がぐるぐると続き、さらに、その内部の壁は一面本棚になっていて上から下までびっしりとありとあらゆる分野の本が納められている。

この塔は知識の宝庫。

あるいは伏魔殿。

管理人には『図書室の悪魔』などというあだ名がつけられ、日々飼っている梟とともにバベルの図書塔の蔵書たちを守っている。

決して近付くことなかれ。

本に触れたが最後、貴方はその塔から一生降りられなくなってしまうのだから…。