また一人、また一人ここから去るたび、
笑って微笑んでいた。


内心穏やかではないはずなのに。


「……」


「行こう?理沙ちゃん」


取り残された私と佐藤先輩は、彼の
背中を見つめながら一緒に歩いた。


彼を目で追い歩くのは、
なんだか奇妙な光景だった。


でも隣には行かない、
彼を追いかけてはならない。


それが、伊月先輩にとっての
立場をわきまえると言う事。


そうさせている自分が情けなくて、
惨めだと思った。


同じ部活の仲間なのに……。


……きっと、佐藤先輩だって、
顔には出さないけど、同じ気持ちなんだ。


でも、もうこれは仕方ないとしか
言うようがなくなった。



〝彼を一人にさせる事は、
私たちの安全なのだ〟



正確に言えば、自分の大事な人。


私はなにより伊織が大事で、
かけがえのない大切な人なんだ。


あの子は今、過去の自分に抗い、
必死に殻を破ろうとしている。


でもそのきっかけを作ったのが
まさか伊月先輩だなんて……。


〝これからは、教室で食べようかなって〟


のちに聞いた旧校舎での二人の会話は、伊織に影響を与えている事がすぐに分かった。


ベランダで彼を見つけた時も、あんなに
目を輝かせている彼女を私は初めて見た。


それと同時に、やばいとも思った。


…伊織はまた先輩に会いに行くんじゃ
ないかって。


そしたら、そしたら “彼女” に見つかるかも
しれないって。