恋が枯れるまえに、約束を

何も言い返せずに、ただむくれる私に、
理沙が割り込んだ。


「なーに伊織いじめてんの中居、あんたの事なんて知っても需要ないだけだから、ね?」


「……」


「何だよオトコ女」


「どっちがよ!」


……また始まった。


この2人の仲は入学したての頃に
できた亀裂だった。


と言っても、理沙の些細な間違い
なのだけれど。


簡潔に言えば、中居くんは自分の名前が書かれた私物を落とし、それを拾った理沙が彼を女の子と勘違いしたというもので。


〝中居楓ちゃんってどの子ー?〟


まだ勘違いだけならいいものの、クラスで声を上げ言い放てば、もう笑い種の出来上がりだった。


その日を境に、2人は常に対立し、中居くんは
友達から“楓ちゃん”といじられるんだとか。


2人を仲裁するにも気迫負けしてしまい、
呆れ見守る事しか出来ない。


まあ本音を言えば、ただただ
めんどくさいだけなんだけど。


「いつまでも根に持ってなに?」


「お前が気にくわないだけだけど
なに?文句あんの?」


「文句あるに「ヤメテクダサーイ」


耳をふさぎながら、私の変わりに仲裁に入る
その声には力が入っていなかった。


でも確かに彼はここにいて、
私の隣でそう言った。


「伊月先輩…」


2人の頭をくしゃりと撫でるその姿は、
まるでお兄さんみたいで。


「先輩!髪崩れるじゃないですか」


「……」


そう言って頬を膨らませる理沙とは
打って変わり、中居くんは先輩には
頭が上がらないみたいだ。