口を尖らせながら、何気なく窓の外を見る。
そしてふと、彼女と一緒にベンチに座って話している蒼井センパイの姿が見えた。


「ああああ、蒼井センパイっ!...ふはぁ...休み時間に見られるなんて幸せ」
「奏の蒼井センパイ愛はもう変態レベルよね。隣にいる彼女のこととか見えてもないでしょ」


泉美の呆れ声は、無視。いくら友人であろうと私の恋は止められんのだ!
手で筒を作ってその隙間から蒼井センパイを眺める。別に双眼鏡の効力がある訳ではないんだけどね。

センパイの、いつもはクールな感じなのに...笑うとえくぼが出来て、幼く見えるところが大好きだ。

でも、そのセンパイを笑わせてるのは私じゃなくて...。
いかんいかん、しんみりしてどうする。
夢は見続けりゃ叶うんだってきっと!そう信じなきゃやってられないもん。


「奏、大丈夫?...その」
「へーきへーき。センパイが彼女サンといるのとか見慣れてるし?それに、姿が見られるだけで超幸せ。今一番怖いのはセンパイが卒業して会えなくなっちゃうことだよ...」


まだセンパイは2年生だけど、高校の3年なんてきっとあっという間だ。過ぎ去ってしまえばあっけなくて、目まぐるしいものだ。たぶん。
そうとはわかってるけど...諦める気になんないんだよねぇ、これが。


「泉美だってさ、先生のこと好きだけど...気持ち伝える気はないんでしょ?」
「...ないわよ。先生を困らせたくないし...少女漫画でもなけりゃ、上手くいくなんてありえないでしょ」
「ネガティブだなぁー」
「大人っぽいって言ってほしいところだけど」


こうしてお互いの恋愛をネタにして軽口を叩け合えるのは、それぞれが同じような気持ちだから。



私は彼女持ちの、私なんか眼中に入っていないセンパイに。

二宮は一目惚れした、毎回彼氏のいる女の子に。

泉美は、『先生と生徒』という高い壁の向こうにいる男の人に。




みんな、叶わない恋をしてるってわかってるのに。
もうこんなのやめたいなって、何度も思ってるはずなのに。
...それでも私達は恋をする。

いつか傷ついてしまうとわかりきった上で、収まらない気持ちを持て余しているんだ。




まぁ、そんな感じで日常はゆるゆる過ぎていって。
あっという間に経った数週間に早いなぁとボヤく暇もなく、私は懲りずに蒼井センパイの姿を目で追っていた。

そんな何の変哲もないある日、その事件は起こったんだ。




それは、授業を終えた放課後。


「日直がノート集めとか...ノートあり過ぎじゃない!?...くぅ」

我がクラスでは男女1組で日直を回す決まり。でも一緒に担当だった内宮は「用事あるからあとはよろしく!」と言って帰りやがった。

私は知っているぞ!そのちょっと前に「4時から始まるクエストに間に合いてぇからな...ダッシュで帰るわ」と友達に言っていたことを!
あのアホ内宮め。盛大にバトルで負けてるがいいさ!