唸る私を、二宮と泉美がどこか楽しそうな様子で見てくる。
くっそ、他人事だと思ってるだろお前ら!

言われてばっかりじゃやってられない。というわけで、私もそろそろ反撃に出ることにする。まずは二宮から。


「にーのみやー?今は誰のこと好きなんだっけー?」
「えっ!?...っは、おま」
「週二で一目惚れして、思いっきり彼氏いることが発覚してるけど...今日の運命のお相手は誰かなぁー??」


二宮が真っ赤になって俯く。形勢逆転!
お察しの通りこの男、かなり惚れっぽい。というか一目惚れ体質。
毎日のように「1000年に一度の運命の出会いだ!」とか騒いでは、すぐに撃沈する哀れなやつなのだ。

二宮は斜め下を見ながらボソボソと口を開く。


「...5組の木村さん」
「また人変わってんじゃない。2組の上坂さんはどうしたの?」
「...彼氏がいました」


私と泉美は顔を見合わせて肩を竦める。
...また懲りてないなこいつ...本当にタフだわ。
センパイにハイスペック完璧彼女がいても諦めない私に言われたくはないかもしれないけとね。

泉美が呟く。


「2人とも、青春まっしぐらな感じよね」
「おやおや泉美サン?あなたも人の事言えないと思うんですけどー?」


私は次のターゲットをロックオン。
にやりと口元を緩める私を見て、泉美がビクッと体を揺らした。


「そーれーでー?泉美は夏木先生となんか進展あったわけ」
「声が大きいわよ!...進展なんてあるわけないじゃないっ」


たちまち顔を耳まで真っ赤に染め、私の口を塞いでくる泉美。
そこにはいつものクールビューティの面影はまるでない。タダの恋する乙女だ。

泉美の想い人は古典の夏木先生。
さっきからクールに冷やかしてくれたけど、彼女もなかなか叶わない恋をしている。


「ちなみにだけど、泉美は先生のどこが好きなの?」
「なんでそんなこと聞くのよ...そりゃ、まずカッコイイし、声も好きだし、...字、綺麗だし。優しいし、あと」
「へいへいへい、ノロケはそこまでなーっ」


手をワイパーのように振って泉美の言葉を遮ると、「...そっちから聞いてきたんじゃない」と口を尖らせる。
クールビューティデレ...ギャップ萌えかよ、女の私でも惚れそうだぞ!

とりあえず、ざっくりとまとめておくと。



私達3人はいっつも叶わない恋をしている、ってことです。



「ふわぁ...今日も今日とて授業が眠いっすね」
「それな...」


2限目の古典の授業後、『授業は基本寝落ち組』の私と二宮は机に突っ伏す。
ダメージを受けずに涼しい顔をしている(...って言うよりどちらかと言うと幸せそう?)のは『真面目で、夏木先生ラブ組』の泉美だけだ。


「よくあの授業で寝ないね?まぁ古典は夏木先生だから良いとしても、他の授業でも泉美寝ないじゃん」
「それは2人が特殊なだけじゃないかな」


そんなはずない!...と思うけどな。ぜ、全国の学生の皆様に問いたい...。
二宮が机から顔を上げて言う。


「5組の友達んとこ行ってくる...」
「ん、木村さんとこの間違いじゃ...ふぐぉっ!?すんませんでしたもう言いません!もう言わないんで本気の腹パン勘弁してけろぉ」


他人のことは散々冷やかすくせに、自分のこととなるとこれだ。容赦なさすぎる。
一応私も女なんですけど!?