「蒼井センパイ!おは、っ、おはようございますうっ」


すきっと澄み渡った青空、いつもの校門の前。
まずい。声裏返っちゃった?変な子って思われちゃった!?

蒼井センパイを見てると、いつだって脳内が大騒ぎだ。
でも、現実では話せないんだけどね。こうやって挨拶するのが精一杯。

センパイは満点スマイル(今日も安定のかっこよさ)を見せながら口を開いた。


「おぅ、おはよ」



おはようだって!おはようだってぇぇ!
感動して座り込みそうになっている私には目もくれず、センパイは後ろを振り返った。



「寧々、早く来いよ」
「あー、待ってよぉ」


ふわふわの長い髪と垂れ目がちな大きな瞳。
胸元の膨らみは、私の倍...以上。制服のスカートから伸びる長い足も、とにかく何でも完璧なその女の人は...



...センパイの彼女だ。



「...今日も...今日もセンパイかっこよかった。もうヤバい。泣きそう」
「おー...今日叶わん恋愛おつかれさん」


いつものように教室で額を机にぐりぐり擦り付けて叫んでいると、これもまたいつものようにクラスメイトの二宮洸太が呆れ顔で合いの手を入れてきた。

私...今井奏はガバッ、と勢いよく顔を上げ、二宮の顔を睨みつける。


「叶わなくなんかないわぁぁ!私だって、いつかセンパイと!」
「でもさ、現実的に考えてみろよ?向こうは彼女持ちだぞ。しかも超美人の」
「ぅ...」


小さく呻きながら、私は改めて自分の姿を確認する。

何の変哲もない一つ結びの髪(ポニーテールと表現するのもおこがましいレベルの、地味ーなやつ)と膝下までのスカート、平均より若干(かなり)発育悪めな胸囲。

...うう...ボロ負けだ。
いや、勝てるとか勝てないとかそういうレベルでもないよな。まず同じ女として見られるかどうか微妙なラインだ。



二宮は呆れた様子で肩を竦めた。


「ほれほれ、とっとと諦めろ。それか、さっさと告白して玉砕して来い」
「何で一介のクラスメイトのアンタに言われなきゃなんないのよ!信じるものは救われるんだ!信じてりゃいつか叶うもん!」



ギャーギャーとアホみたいな論争が始まる。
そんな不毛な論争を止めたのは、涼やかな女の子の声だった。


「もう、そこでくっついちゃえば早いんじゃないの」

「「それは絶対、何があってもない!」」


ピッタリ揃う、私と二宮の声。
...私達は「お前、真似すんな」「意味わからんわアンタが真似したんだろーが」という小競り合いを始める。


「そういうとこが仲良いって言ってんのよ」
「違うから!泉美も、楽しんで言ってるよね!?」


私は二宮に構うのをやめて、さっきから冷静に冷やかしてくる友人の方に向き直る。

友人の眼鏡美女・永瀬泉美は表情を変えずに眼鏡を押し上げた。


「それで?一応聞くけど、蒼井センパイと何か進展は」
「一応聞かんでよろしい。大体わかるでしょ...」
「あぁ、挨拶しただけよね」
「うぐぐぐ...」