俺が気になるのは、派手なフランス人形のナナミより、到底、このキャバクラのイメージには合わない、清楚で大人しめの美人タイプの桃子の方だった。

 美人だから気になるのではなく、彼女の体はどんよりとした黒い影に包まれていたからだ。

 普通の人には見えない影。

 その影のせいで彼女はどんよりとして見えた。 

 こういう影に包まれた人は、本来の自分を見失いがちになる。

 明らかに危険信号を出していた。

 取り敢えず、旬はナナミに夢中だ。

 俺は桃子に何気なく影の正体を探ろうとした。


 『助けて…』
彼女の心の声も訴えている。


 俺はきっとこの声に辿り寄せられて、ここに来たんだと悟った。