あるセンセイのバンクーバー物語

 「荷物の準備はできた?」玲奈の母が尋ねた。

 「うん、あとは下にスーツケースを運ぶだけ。」

 家族も、玲奈が今日からカナダに行くのを寂しく感じ、なんとなく口数が少なかった。なんと声をかけていいのかわからなかった。人生を楽しんでほしいという願いと、海外になんか行って生きて帰ってこれるのかという不安と、寂しさと、色々な感情が混じってことばにならなかった。

 「行ってきます。」

 玲奈の祖父と祖母は静かに玲奈が去るのを見守った。いつもと何も変わらなかった。

 どんなに寂しい気持ちだったか、玲奈には想像がつかないだろう。



 スーツケースとボストンバッグ二つという大量の荷物とともに少しよろめきながら、玲奈はカナダへと出発した。