あるセンセイのバンクーバー物語

 「なにこれ!誰の車よ?まさか盗んだんじゃないでしょうね?」スコットはChrysler 300に乗って現れた。

 「誰の車って、俺のだよ。変?」

 「いや、私この車すごく好きなの。日本ではほんのたまに見るくらい。すごくセクシー...。」

 「乗ってよ。」二人は海に向かっていった。

 スコットは普段見ない玲奈の私服姿に、なんと言って誉め言葉をかけていいのかわからなかった。抱きしめたい衝動にかられたが、運転中だし、変な言い方になると余計に彼女が緊張してしまう、と考えて、その洋服いいね、日本から持ってきたの?と聞くのかそれともすごく素敵だよ、と言いたいことを素直に言うのがいいのか迷っていた。結局日本から持ってきたものなのか聞くことにした。

 「まだあんまり洋服をこっちで買ったことがないの。これも日本から。正直、洋服は日本にあるもののほうがかわいい。それから下着。この前見にいったんだけど、全然いいのがないの!日本に帰ったときに大量に買ってきてまた持ってこないと。」

 そこまで言って玲奈は我に返った。男性に、いったい自分は何の話をしてるんだろう。

 「そんなこと言ったらさ、レイナの下着見たくなっちゃうからやめてよ。」

 玲奈は自分の顔が赤くなるのを感じた。

 「なにそれ、こんな年上の女性の下着見たってどうってことないでしょ。21歳くらいの周りの女の子たちなんて、すごくきれいでかわいいじゃない。」

 「正直、興味ないね。」

 玲奈は一瞬、スコットはゲイなのではと思った。あんなに健康そうできれいな女の子たちをみて興味がない?それはおかしい、と彼女は思った。

 「レイナ、何考えてんの?まさか、俺がゲイとか考えてないよね?まさか違うからね。」

 「あ、そう。でも私、ゲイの友達けっこう多いんだよ?みんなめちゃくちゃ面白くていい人達ばっかりで、偏見かもしれないけど、ゲイの人にたいしてはすごくいいイメージ持ってるんだ。」

 「なんだそれ。じゃあ俺のことどう思う?」

 そうスコットが話しかけたとき、海辺についた。少し風があったので、しばらく車の中で話すことにした。

 「すごくまじめで日本語が好きで、そしてほかの教科にもまじめに取り組んで、スポーツができて話しやすい、って感じかな。」

 「ほんとに言ってる?」

 「もちろん、全部本当。でも、やっぱり変わり者だとも思う。」

 「え?どういうこと?」

 「だって、いったい何が目的で私とこんなことを?普通は友達と過ごすものでしょう?」

 「レイナは俺と来たくなかったってこと?」

 「そんなこと言ってないでしょ。もちろん、すごく、来たかった..よくないことなんだろうな、とも思ったけど、うれしいな、って思って断れなくて。それにおまけで、あなたがすごくかっこいいから。」

 玲奈は本当に思っていることを冗談交じりで言うはずだった。そのつもりだった。真剣にとられてしまうのが一番まずいと思ったのだ。

 「レイナ、俺さ..。」

 そう言ってスコットはレイナにキスをした。もう抑えられなかった。そっと優しく、それでいて熱いキスをした。玲奈もいったんは抵抗しようとしたものの、スコットに押さえつけられたのとうれしさと、見つかってはいけないという恐怖と、でもそれを上回るうれしさのあまり、抵抗するのをあきらめた。

 玲奈はスコットを見つめた。スコットもいつもより青く見える目で玲奈を見つめた。

 「俺、レイナのことが好き。すごく好きなんだ。」

 「あなたは私の生徒よ。そんな関係よくない。」

 「わかってるよ。だから学校では普通に先生と学生として過ごすよ。でも、会いたいときにはこうやってドライブに来れないかな?」

 「すごくうれしいんだけど、これって隠し通せることでもないし..。」

 「いいよ、今は。レイナのことが好きでたまらないって、伝えたかったんだ。」

 「ありがとう..。」

 玲奈はもっともらしいことを言ったのだが、本音ではもっとスコットとキスをしていたかった。でもまさか自分からキスをせまる勇気なんてなかった。それこそ本当の犯罪のように思えた。日本でもカナダでも成人として見られる彼だが、やはり職員と学生という関係はぬぐえない事実だった。

 「レイナ、なんでそんなにきれいなの?好きで好きでどうしようない。どうしたらいい?」

 玲奈は何も言えなかった。スコットがまたキスをしてくるのを、そのまま優しく受け入れることしかできなかった。