「少し話をしすぎたわね。」
「お体は大丈夫ですか?」
「少し部屋で休むわ。」
「お母様...」
明らかにさっきよりも顔色が悪い。
急にお母様がいなくなってしまう気がして怖くなった。
長くウェーブのかかった綺麗な漆黒の髪の毛はこの国の宝だと言われていた。
このジグドラハルの王国の最古の民族であるユグノアの高潔な漆黒の髪と紫紺の瞳はほとんど失われていた。
だからこそエヴァ兄様はその血を受け継ぐものとして誰よりも生まれたことを祝福されたらしい。
お母様の美しさは褪せることがない。
それはこの先もきっと変わらない。
美しいまま、散ってしまいそうな、狂ってしまいそうな気がする。
「ユノ、エヴァは祝福してくれるかと言いましたね。
エヴァは誰よりもあなたの幸せを願っている。だからこそ、あなたを悲しませることはしないはずです。」
それだけ言い残し、微笑んでお母様はまた部屋へ戻ってしまった。
私の求めた回答ではなかったけれど、お母様が一番エヴァ兄様のことをわかっているのではないかと思えた。
ユグノアの民は言葉を交わさずとも意思疎通ができると言われていた。
お母様とエヴァ兄様は私たちとは違うつながりがあるのかもしれない。
一人寂しく部屋に戻る。
鏡に映る私の瞳は黄金のまま変わりはしない。
どこから受け継がれたのか、誰とも違うその色が嫌いだった。
せめて国王と同じ碧眼だったなら。
お母様と同じ紫紺だったら私もユグノアの血を引いてたかもしれないのに。
中途半端に受け継いだ漆黒の髪はお母様と同じように巻かれ、腰のあたりまで伸びていた。
「ユエ、どうして私の瞳は黄金なのかしら。」
「私はとても綺麗な色かと。繁栄をもたらす稲穂の色ですわ。」
「ユエは...いつでも私の味方でいてくれるのね。」
「もちろんでございます。私はユノ様が大好きなのですから。」
ユエは時々幼い少女のような笑顔を見せる。
暖かくて、優しい笑顔は私を安心させる。
彼女は私の唯一の拠り所だ。
ユエがいるから今の私は生きている、のだと思う。本当に。


