「ユノ、少しお話しませんこと?」
食事を終えて、手紙を持ったまま部屋に戻る途中、お母様に声をかけられる。
「お母さま。今日は体調がよいのですね。ええ、喜んで。」
「城内がバタバタしている中、一人寝ているなんてできませんから。」
「ですが、無理されるのはよくないですよ。」
ここ最近はあまり体調がすぐれないらしく、部屋に籠りがちだった。
そもそも、お母様の体はそんなに強くはなくて、双子を含めた7人もの子供を産めたことが奇跡とさえ言われていた。
お母様はどうしても女の子が欲しかったと言っていたらしい。
...この国にとって女は飾りでしかないことを知っているはずなのに。
お母様は昔から体が弱かったけれど、国王の妃として迎え入れられたのは、単純にお母様が国の重臣の娘達の中で一番美しかったから。
ウ―ヴ兄様の妻であるメイヴ后妃も同じ理由で選ばれた。
この国の男は女を見た目でしか選ばない。
飾りだとしか思っていない。
...この国で女として生きることは決して楽なことではない。
もちろん皇族であろうとそれは変わらない。
私の未来は決まっている。
国の重臣の一人であるユーヴェンス家の長兄の妻として皇室をでる。
その未来はどうあがいても変えようがない。
私は今年18になる。
18になるその日に婚姻の義が執り行われることになっている。
数えるまでもない。あとひと月後のこと。
拒否権など私にはない。
誰にもない。
だからこそ私は、トワに連れ去ってほしかった。
ここではないどこかへ。
遠い遠い異国の地へ、トワと行きたかった。
叶うことのない願い。
願えば願うだけ虚しくなるのに。
私はその虚しさすら、まだ受け入れられない。


