「ウ、ウォル?あなたも人狼だったの?」

「ああ」

銀色の髪に銀色の瞳。綺麗な顔をサラサラの前髪が撫でる。長身で鍛えられた体躯はまさに狼のようだった。

「俺の名前は空月。銀狼一族の末裔だ」

「私は、かなた」

「かなた」

いつの間にか、かなたの目の前まで空月が近づいていた。

「成人して狼になった人狼は、望月の夜だけ人形(じんけい)になる。狼の姿で生活することは男の俺でも簡単なことじゃない。」

かなたの頭を撫でながら、悲しそうに空月が続ける。

「だから、かなたもこんなところに籠っていないで、早く運命の伴侶を見つけに行くんだ」

「でも、私は,,,」

かなたの言葉を遮るように、空月がかなたを抱き寄せた。

「狼の姿ではこうしておまえを抱き締めることもできない」

空月は苦しげな表情でかなたを抱き締める腕に力を込めた。

人の姿をした空月の体は大きくて、小さなかなたの体をすっぽりと覆っている。

伝わってくる体温は狼の時とは違って少し低めだった。

狼のウォルですら離れがたいと思っていたのに、人狼の空月だと知ってしまってからは尚更思いが強くなる。

かなたが、その気持ちを伝えようとした時、

「俺がお前の伴侶探しを手伝う。だから諦めるな」

と空月が言った。

かなたは、言いかけた言葉を咄嗟に飲み込んだ。

"空月は私と一緒にいることを望んではいない"

かなたはそっと空月から体を離すと、泉の近くに横たわっていた丸太にそっと腰かけた。