一体どれ程の時間が過ぎただろう。

母が死に、父が死に、そして村全体が滅びた。


かなた(♀)は村の最後の生き残り。
緋色の目をした人狼の末裔。


村は、街から隔離されるようにひっそりと存在していた。

人口はたったの5人。かなたの両親と叔父夫婦、そして、かなた。

かつては叔父夫婦の子供、いわゆるかなたの従姉である"はるか"も村で暮らしていたが、成人するとすぐに村を出て行ってしまい行方不明になった。


身を寄せるように暮らしてきた両親と叔父夫婦は、息を引き取る寸前まではるかとかなたのことを心配していた。

まるで二人だけが生き残ることを知っていたかのように。

父は、かなたの知らない真実を語った。

"次の満月が月食で朱銅色になる"ブラッディムーン"を見た時、お前は狼になる"

かなたはずっと、自分が人狼であることを両親や叔父から聞いてはいた。

しかし、他の家族も、満月になったからと言って狼に変身したことはなかったし、瞳が炎のように赤い以外は他の人間と何ら変わりがなかったと記憶している。

しかし、父が語った事実は衝撃的なものであった。

「私達は血族結婚だ。だから長くは生きられないこともわかっていた。お前は、成人した直後のブラッディムーンまでに人狼の男性と巡り合い、思いを通わせることができれば、人間として天寿を全うすることができる」

「,,,残り3ヶ月しかない。さあ、旅に,,,出なさい」

父と叔父、母と叔母はそれぞれ双子で、緋色の目の人狼だった。

「私達は成人するまでに人狼同志で結婚できたから、狼にはならずに人形を保つことができた」

と父は語った。

両親が生まれた頃には、村にも数組の夫婦がいて、血族結婚する機会が今よりも多かったと言える。

しかし、血は確実に途絶えつつあり、
村に生まれた従姉のはるかも、続いて生まれたかなたも女性だったため、血族結婚は不可能となってしまった。

従姉のはるかは、1年前に村を出て運命の人を探しに出かけたのだと父は語った。

彼女は運命の人に出会えたのだろうか?


「世界に生き残っている人狼の種族は、片手に余る程だと言われている。村を出ても、人狼の男性に会えるとは限らない。」

「人狼は成人するまで、見かけは何ら人間と変わらない。しかし、貴重な人狼を狙って売買しようとする輩もいる。近寄ってくる男たちを見分けることはかなり難しいと思いなさい」

父は息も絶え絶えに続けた。

「,,,愛しているよ、かなた。,,,私達の子供でいてくれてありがとう。きっと運命の男性に出会って幸せになってくれ,,,」

その言葉を最後に父は息を引き取った。