それから私は週に2回程彼のマンションに行く様になり、あっという間に一月半が経った。
その間も彼が手を出してくる様な事はなく、私も積極的になる様な事もなく、穏やかに時間は経過していた。

もはやこのままでもいいかもと思い始めていた時、彼が週末飲みに行かないかと誘ってきた。そして泊まりにおいで、とも。

今まで何となく週末は避けていた。何故なら帰る理由がなくなってしまうから。

週末に彼のマンションに行くという事は、私にとってそれは決戦の日だという事だ。

私はすっかり彼の事が好きになっていた。
でも今のままでいい気もしていた。

だって今はどんなに彼を好きでも、何のきっかけもなしに嫌になってしまう事がある事を、私は知っているから。

「…はあ」

そのメッセージが来たのは昼休憩中で、私はどう返事をしようか考えあぐねていた。
それが顔に出ていたのだろうか、ゆりなが「屋上でコーヒー飲まない?」と誘ってくれた。

私はゆりなに全部洗いざらい喋った。いつも揶揄ったり、茶々を入れたりするのに、ゆりなは真剣に聞いてくれた。

「成程ね〜。雪、確かにあの日かなり酔っ払ってたものね。私二次会の途中で帰っちゃったから知らなかったけど」

「いい歳して恥ずかしくて…言えなかった」

「別に雪の人生なんだから、私に一々報告する必要はないけどさー。
何か最近綺麗になったなあとは思ってた」

「…は、恥ずかしい」

ゆりなは「なんでよ」と言いながらケラケラと笑う。
そしてゆっくりと喋り出す。

「まあ、それでも雪がその人と恋愛したいかじゃない?
だってどんな人とお付き合いしても必ず倦怠期というか、心が落ち着く時期は来るんだもの。
それを乗り越えられるかどうかは私にも分からないし、雪だって、その人にだって分からない。
そんな予測できない様な事に怯えて今の関係を続けるのか、それでも踏み出したいのか。
雪の気持ちはどう?」

ゆりなの言葉がすごく私の心に響く。
確かにそうだ。別に彼じゃなくとも、恋愛をするという事はそういう事だ。
トラウマの様に感じていたけれど、元彼とのあの一件は、逆に私を学ばせてくれたのかもしれない。

大体こうやって悩んでいる時点でもう手遅れ
なのだ。
私は、彼との関係を深める事を望んでいる。そういう事だ。

「ありがとう、ゆりな。何か目が覚めた」

「良かった!私も今の彼とは長いから、そういうの勿論あったよ。でも短かったし、更に好きになれた。
そういう事もあるっていうのを覚えててね」

「さりげなく惚気…」

「やだあ、そんなつもりじゃあ」

幸せオーラいっぱいのゆりなの肩を小突く。
そして私は彼に了承のメッセージを送った。