食べ終わり、カオス状態だった台所も二人で片付けた後、私が買ってきたケーキを食べた。
眠れなくなるといけないからと、お茶請けはコーヒーではなくホットミルク。しかも何故か美味しい。料理は壊滅的なのにホットミルクを作るのは上手って本当謎だ。

「この人最近よく見るね。知ってる?」

「そう?半年前からめっちゃ推されてたアイドルだよ」

「そうなんだ。ずっとテレビ観てなかったからなあ」

「あなたって本当に謎の生活してたのね…」

それから二人でテレビを見ながら他愛のない話をして、明日も仕事である私は帰る流れとなった。
駅まで送ると言われて、大人しくそうさせてもらう。

「楽しかった。じゃあまたね」

「…うん、お休み」

改札を通り、ホームに向かう。角を曲がる際振り返ってみると、彼はまだそこにいて、小さく私に手を振った。
私は何だか切ない気持ちになりながら、同じように小さく手を振り返す。
やがて彼は見えなくなった。

奇跡的に電車は空いていて、遠慮なく席に座らせて頂く。
すぐに彼に邪魔させてもらったお礼のメッセージを打ちながら、(本当に友達なんだな)と実感した。

記憶にはないが、一応致そうとまでした関係であったし、多分胸とか見られてるし、何より彼は私と付き合いたいと言った。
それでも一切手を出そうとする様な空気はなく、普通にご飯食べて、普通に話して、こうして普通に帰っている。

遠慮なくお持ち帰りしたというくらいだからチャラい人なのかと思ってたけど、私が望んだ関係性を保とうしてくれている彼に素直に好感を抱いた。

いや、でも最初だけかもしれない。
ただ既に手を出されてもいい気になっている。自分から線引きしたくせに。

やっぱりお友達やめましょう、なんてどのタイミングで言えばいいんだろう。あっさり覆したら引かれるのでは、とか、でもお友達期間中に冷められたらどうしよう、とか一人で悶々とする。
今まで恋愛を遠ざけていた事を後悔した。
どうやって彼と距離を詰めればいいのか分からない。

お礼のメッセージを送信して、はあ、とため息をつく。
今は彼に委ねるしかないと、心に決めた。