どうやら調べてみると、彼はその短編小説以降もそれなりにヒット作を生み出すがそれを超える事は出来ず、どんどん低迷していった様だった。

最後に出したものは2年前。
それまで毎年1〜2冊は出していた様なので、空白期間がそれなりという事になる。

彼は言っていた。
昔は仕事ばかりしていたけれど今は落ち着いている、と。
そういえば出会った当初は仕事部屋に全く近寄っていなかった。
しかもそのSNSには、“スランプなのでは”といった言葉も書かれている。

じゃあどうして急に書く気になったのか。

「…もしかして、私と付き合ったから?」

タイミングとしては完全にそうだった。
私という存在が彼に刺激を与えたのかもしれない。
また仕事に向き合えるきっかけとなったのならそれは誇らしい事だ。

でも私には一つ引っかかっている事があった。

どう考えても最悪な出会いをしたあの日、彼が私と付き合いたい、と言った事だ。
やっぱり今考えてもあれはあまりにも突飛で、そう結びつくにはおかしい言動だった。

私の頭の中にとてもよくない考えがよぎる。
彼が私と付き合いたいと言ったのは、作品創りのためではないかと。

そして今書いているものは、私と彼の出会いから現在に至るまでのプロセスを参考にしているものではないかと。

私は、私の知らない所で私の事が勝手に世間の目に晒されるのではないかという事実にぞっとした。

いや、まさか。彼がそんな事をする筈がないとも思う。
そもそももこの“林田 空”は同姓同名の別人である可能性だってあるのだ。

私はパニックになりそうな自分をどうにか落ち着かせながら、重たい足を必死に動かして彼の元へ向かった。