羊と虎


『拙いのかって!当たり前でしょ!って言ってやりたい・・・でも言えないよね。』

言い返したいのをぐっと我慢する為に、一呼吸置いてから口を開く。

「取締役に来られたら、同僚に不振がられます!」

「近くで待つから大丈夫だ」

『何が大丈夫なんだろう・・・頭痛くなってきた・・・。何で態々迎えに来るって言うのかも分からない。
でも、意思が固い事は分かるし、連絡しなかった所為で、機嫌が悪い事も分かるし・・こっちが折れるしかないかぁ。』

額に手を置き、携帯を離して盛大にため息をついてから、話し始める。

「分かりました。これから場所を送ります。30分後位に来ていただけますか」

「今からじゃダメなのか?」

『淡々とした声でそう言われると本当に怖いんだって!』

「まだ、来て30分位しか経ってないので、帰りにくいんです」

『もう既に電話で席を外してるから、帰りやすくはなってるけど、まだ食べ足りないし・・・。』

「・・・分かった。30分後に迎えに行く」

「宜しくお願いします」

営業用の可愛らしい声で返答して電話を切ると、盛大にため息をついてしまった。