羊と虎


「誰からだろう」

スマホの画面を見ると、凱の文字が・・・。

「!?ちょっと失礼します」

店内は煩過ぎて声が聞こえないので、慌てて立ち上がって、店の外に出た。

「はい、杏奈です」

久しぶりに聞く凱の落ち着いて心地いい声が耳に届く。

「俺に連絡する暇も無いのに、同僚とは飲みに行くんだな」

開口一番に、抑揚の無い声が電話口から聞こえて来た。

『!? ヤバい連絡する約束忘れてた。』

「す、すみません!連絡しなくて。え・・と、もう用事は無くなったので、何時でも大丈夫です!」

『凱の抑揚の無い声って、ちょっと怖いんだよね。』

そんな事を考えながら、見えるはずも無い凱に頭を下げてしまう。

「なら明日だ」

「え?!」