羊と虎




そんな生活を繰り返していた金曜日。


「小鳥遊の顔酷いな」

昼休みに自販機の前のテーブルに腰掛け、コーヒーを飲みながら鈴木が口を開く。

「あぁ、あれで本人無自覚だから恐ろしい」

この二週間の杏奈は何かに取り付かれたようだった。

物凄い集中力・・なのかぼんやりしているのか分からないが、回りで会話していても気付いていない。

一日中休憩も取らずにソースコードと睨めっこをしながら、仕様書と比較したりメモをとったりと、頑張っている事は分かるが、見ているこちらが心配になる程だった。

しかも、聞いてみると、自宅に帰ってからも身体をフルに動かしているらしく、日増しに疲労の色が濃くなっていく。

「過労で倒れるんじゃないか?」

「何か飯もロクに食ってないかもな」

お互い思ったことを口にしてみるが、口にすると更に良くない状況である事がわかる。