羊と虎


「杏奈?」

杏奈の様子が可笑しい事に気付き、声をかける。

その声にハッと現状を思い出す。

「あ、ごめん。長居して、怪我も治ったし、帰るね、じゃ!」

一気に捲し立てて、用意していた鞄を掴んで凱の家を後にした。

凱が何か言っていたが、耳に入らず振返りもせずに一気に家まで帰った。





家のドアを閉めると力が抜けてズルズルと座り込む。

凱の台詞に傷ついた事で、始めて自分が凱の事を友達以上に見ていた事に気付かされた。

『気付きたくなかった』

胸を締め付けるどうにもならない苦しさに、無意識に旨の辺りの服を握り締める。

『こんな感情もっちゃダメなのに・・・辛いだけなのに・・・なんで気付くかな』

気付いた瞬間失恋する自分が、酷く惨めな気分になった。