そんな母の後姿に、「荷物を置きに行って来る」と言い残し、台所を後にした。

杏奈が大学に進学してから部屋はそのままにしてくれていた。

室内は時が止まったままのように変っていないが、帰る事を知らせていたので窓が空いており、掃除も行き届いていて埃っぽい匂いはしていなかった。

窓から顔を出すと、道場から元気な声が聞こえて来る。

空手道場は祖父と次男の怜苑(れおん)が中心になって指導している。

長男の紫苑(しおん)は父の会社で働きながら、休日に指導をしている。

どうも、父には素質が無いと祖父が判断したらしく、父は道場を継がず、母と結婚する前から経営していた会社を今も続けている。

今となってはその判断は正しいと思う。

父の会社は順調に業績を伸ばして、この辺でも有名な会社に成長した。

最近は道場の経営だけでは生活が難しいみたいだけど、父のお陰で続けられているらしい。