羊と虎


「うそ・・だろ」

「いやいや、ホントだって。だから何にも無かったんだよ」

驚愕の表情を浮かべる紫苑に向って、畳み掛けるように話す杏奈だが、チクリと胸が痛んだ。

「一つ屋根の下で暮らしてて、何も無いって有り得ないだろ」

「じゃぁさっき凱が行った事、嘘だと思ってたの?!」

まるで凱を疑っているような発言に、今度はカチンと来て、つい大きな声で言い返してしまった。

「僕は嘘だとは思わなかったけど、それでも全く何も無かったって事は無いと思ってた」

父の発言に反射的にそちらを見ると、のほほんとした父の姿があった。

「だって、凱はそういう気全く無い人だもん」

「いやいや、男なら絶対そういう気になる瞬間があるだろ」

尚も食い下がる兄に、イライラが増していく。