羊と虎


「どうした?早くこちらへ」

距離をとっている杏奈を不思議そうに見ながらそういう。

「や、あ、あの、何か用事が・・・」

珍しく歯切れ悪く断りの言葉を口にしたが、声が上ずって小さかった。

「個室だからゆっくり出来る」

距離にして2歩分程の距離を詰められて目の前に立たれた。

「え・・と」

「ほら、行くぞ」

まだ逃げ腰の杏奈の手を掴んで支配人の後に続いた。

引きずられるような形で個室に入った杏奈の視界には、パノラマの美しい夜景が広がっていた。

「きれい・・・。」

「それは良かった。さぁ座って。ゆっくりと眺めるといい」

眼前の美しい夜景をぼうっと見入ってしまった杏奈は、ハッとして慌てて席についた。