『何だ、この可愛い生き物は・・・し、心臓に悪い』
杏奈は昔飼っていた、柴犬を思い出していた。
いつも学校帰りに家の壁沿いを歩いていると、門まで出迎えてくれて、千切れんばかりに尾を振って、歓迎してくれた。
『見上げる瞳はつぶらで可愛かったなぁ』
ぼんやりとそんな事を考えていたが、暫く経って我に返った。
『この部屋ヤバイ!・・でも片付けられないし、もうなるようになれだ!
それよりも、何か食べるものと飲み物・・・』
そうっと、握られていた服の裾を手から引き抜き、ふと、何やら悪戯心に火が付いた杏奈は、代わりの物を握らせた。
それは、以前怜苑が家に来た時、あまりの女らしさの無い部屋を嘆いて押し付けた物だ。
可愛いペンギンのぬいぐるみで、凱の手には羽根の部分が握られている。結構大きくて邪魔だと思っていたのに、今は良い仕事をしていると思ってしまった。
『私の代わりにしっかり凱の傍に居るんだよ』
ペンギンの頭をポンポンと軽く叩いて部屋を出た。

