「・・・月、か」

薄暗い縁側に一人、立ち止まり上を見て呟く女。
秋らしく、鈴虫等の心地よい鳴き声が聞こえ辺りは月の光だけで真っ暗だ。

「今宵も・・・月は応えてくれぬか・・・」

そう呟いた女は無表情だが、何処か愁いを帯びた瞳をしている。


《おや 珍しいモノを見てしまったのう》

突如、辺りに響き渡った艶やかな、それでいて品のある声。
女は特に驚く様子も無く、視線を庭にある小さな池へと移す。
池には綺麗な真ん丸い月が映っていたのだが、声が響き渡ったと同時に水に映し出されている月の中心から波紋が広がり、水面に可笑しそうに口元を扇で隠している美女が現れた。

《久しいのう "かぐや"よ》

"かぐや"と呼ばれた縁側の女は、綺麗な顔をほんの少し歪ませると池に映し出されている美女に向かって問い掛ける。

「月読ではないか・・・そなた、下界には下りぬと申しておったであろう
どういう心境の変化じゃ?」

《ふふふっ 何を言うておるのじゃ 見ての通り下りてはおらぬじゃろう
我は月鏡でそちと話しておるだけじゃ》

からかう様に言うと鈴の音を鳴らしたようにコロコロと笑う月読。

《その様な顔をするではない 何、我の唯の気紛れじゃ
序でに下界に居るそちの暮らし振りを見ておこうかと思ってな》