短編：恋の残り香

美加は黙って俯き首を振った。

予感はしていた。

だけど受け入れたくはなかった。

重々しく健司は香澄の事を話しはじめた。

美加は俯きながら黙って肩を震わせていた。


「どうしようもないんだ…
俺には責任がある…
どんな事しても償いきれない罪だと思う…」


話しながら健司の目には涙が溢れそうになっていた。

話す声は震え、口が思うように動いてくれない。

全身が拒否を示しているような気がしていた。

それでも健司は話を続けた。


「ごめんな…幸せにするって言ったのに…」


美加はしゃくり上げながら首を振る。


「…嫌…別れない…」


泣きながら呟く美加を無茶苦茶に抱きしめたいのを健司はぐっと踏み止まった。

抱きしめてしまったら離れられなくなる。


「美加の事が好きだよ、今でも…
だけど…こうするしかないんだ…
俺にはこんな事しか出来ないんだ…
美加、ごめん…ごめん」


健司は堪らなくなって店を飛び出した。