私の不安をあなたが一番知っている

茫然とする私の元にスマホの通知が届く。
乙女からの、今日は用事があるから先に帰るなというメッセージだった。


今日は乙女とまともに話せなさそうだからよかった。
覚束ない手つきで文字を打とうとしたけど、諦めてスタンプを送り、鍵に手を伸ばした。


ガチャリと閉まったのを確認して鍵を引き抜く。すぐそばにあった階段を降りて、職員室に向かった。
暖房の効いた職員室の暖かい空気が流れ出てくる。失礼します、と言ったかわからない。
教室の名前も知らないことに気付き、指にかけてぶら下げたまま茫然と立つ。


幸い気付いた先生が戻してくれることになり、鍵を渡してから消え入りそうな声でお礼を言った。


浅野 思意。思うに意でしい。何かを思い続け、自分の意見を言える人になってほしかったらしい。
私の思いなんて……意見なんて無意味なのに。


無駄に足が速く進んだからか、周りを見ないで歩いたからか、いつのまにか駅の柱が見えて驚いていた。


すぐ目の前にある柱のおかげで目が覚め、券売機に向かう。
パスケースのリールを引き伸ばして小銭を取り出し、投入しようとしたけど手が止まった。


買う切符ど忘れした。
幸い後ろに人はいない。頭上の路線図を辿り、最寄駅を見つける。


ここからでもあそこに行けるんだ。
運賃を示す色を見て、最寄駅の金額に二十円を追加投入した。