校長先生は誰かの名言を引用し、夢を語った。夢もなく、その日を生きるだけで疲れるような私は聞く気もなかった。
三年生になってから頑張るのでは遅い、今から全力で頑張って、実力を貯めるんだ、と訴えかける。


気だるくて、いい結果を求める気も起きない。就職先は家の近くで、ブラック企業じゃなければいい。どんな仕事がいいと即答できないし、どうなるのか全く想像がつかなかった。


元からこんな人間だった訳ではない。小さい時は親戚のお姉さんに影響されて、看護師さんになりたい、とか、漫画が好きだったから漫画雑誌の編集長になりたいと言ったこともあった。


どれもなるまでに遠い道のりが待つ職業だ。
保険と理科の授業が苦手な私に看護師は無理だし、国語では登場人物の気持ちを答えられなかったり、漢字で散々な点を取るようでは雑誌を作ることなんて困難だ。


ただ留年しない程度に勉強して、面接では真面目で頑張る自分を張り付けるだけの人間なんだ。


校長先生の長い話が終わり、表彰式が始まる。
私は一生、あそこに呼ばれることがないんだろう。私には何もないから。


受験の時も、私を後押ししてくれるような賞というものはなかった。
今回もそうだ。帰宅部で、何も褒めるところがなくて、ただ大人しくしていることだけが取り柄の人間として、就職活動に放り出されるんだ。


不意に、自分の体が抜け殻になったような感覚が襲ってきた。
手から感覚が消えても動くことは動く。
この先、何も感じることなく、流されるように動くだけ……。


自分が急に怖くなって頬をつねった。頭にかかっていたフィルターが弾け、急に音が明瞭になる。
頭と耳が慣れるまで私の心臓は落ち着かなかった。