そういえば、安芸津さんってうちの高校出身なんだった。
十年働かなくても生きていけるくらい貯金できるところに就職できたのか……。謎だ。


ていうか安芸津さんは頭が良いイメージがある。偏差値が高いとは言えないし、学校の雰囲気にも合ってないのになんでこんな高校に?


「高校は別にどこでもよかった。ただ親に言われたから選んだだけだ」


誰にも知られず、心の中で消えるだけの疑問に答えがきた。
本物なんだ、という興奮が、心臓から押し出された血とともに体を巡る。


「親に言われた!?昔は偏差値高かったり、何か特長があったんですか!?」


「いや、普通は偏差値が高くなかったが、まあ色々あったんだ」


色々あった、に続く言葉はなく、この先は聞けないなと察した。


質問しすぎた、と反省し口を動かすのはやめた。代わりに雪の様子が気になる。
窓の近くに寄り、レースの穴に目を凝らす。


雪は小粒になっている。もうすぐ止むのでは。このくらいなら溶けてもそれほど濡れないし、出てもいいかもしれない。


「もうそろそろ帰ります」


中がモコモコの袖に腕を通しながら、私を見上げる安芸津さんに一言かける。


「そうか。もう雪は止んだのか」


もうこれで終わりだ。
重要な情報と引き換えに大きな謎を残した。きっと謎は抱えたまま考えることもなく、いつかは忘れていくのだろう。


塵のように細かい雪がまばらに降る。
私の肌に落ちると一瞬で溶けて、次の瞬間にはどこが冷たかったのかあやふやになる。


「ありがとうございました」


「どういたしまして」


軽く下げた首を上げると、何も出ていない鉢が目に入る。
結局何の種をまいたんだろう。


「実は何の種か忘れたんだ。ずっと昔にもらったものでな……。気になったら春にでも答え合わせに来てくれ。……出るかは保証できないが……」


時間が経って発芽率が落ちているのかもしれない。
こう見えて昔は植物図鑑をよく読んでいた。芽の形からでも絞って、適切な育て方を見つけ出してやりたくなる。


「出ますよ。出たら後はなんとかなります」


僅かな希望にかけるかのような、頼りない表情を目に焼き付ける。そして根拠のない自信を込めてはっきりと言った。
芽が出たら、出たじゃないですかと言いたいな。


答え合わせが楽しみだ。