雪止んだかな……。ここにいる目的をふと思い出した。


レースカーンで見えないな。でも安芸津さん今いないし、ちょっとめくってもいいかな。
足音に注意して歩み寄り、めくる。
さっきよりも大粒の雪が降り、窓にも張り付いた。


まだ帰れそうにないや。
座布団に腰を下ろし、なんとなくスマホを取り出す。


すると、ロック画面にアプリの通知が表示された。
コメントに返信がつきました!


一瞬頭が真っ白になったけど、すぐさま解除してアプリに飛び込んだ。


感想ありがとうございます。
キャラクターはどの子も大事にしているので嬉しいです。話のテンポには気を付けていたので、すいすいと進めたと言ってくださり安心しました。


私のコメントで喜んでくださった……悩んでよかった……。
冷えたスマホを持ちながら震える手に力がこもる。


何度も読み直して感動に浸っていると、床が軋む音が聞こえた。


「スマホを持っているのか。すごいな、大人でも持っていない人がいるのに。やはり便利なのか?」


「はい。必需品ですよ。無くしたら生きるのが困難です」


「そこまでか。じゃあ普通の携帯電話や家の電話しかない人はどうなんだろうな」


安芸津さんにつられて私も笑う。


「でもガラケー使っている人とかはいても家電だけってお年寄りくらいなんじゃないですか?」


「なんと。私はお年寄りになるのか?」


「え?」


茶化すように言うから冗談かと思って聞き返した。


「家の電話しかないぞ。もうそれほどスマホが浸透しているのか?」


嘘でしょ。どうやって生きるの?せめてガラケーはないと仕事に支障がでるんじゃ……。


「あの、仕事の時ってどう連絡取るんですか……?」


「十年ほど仕事はしていないからわからない」


眉を寄せ、肩をすくめて言った。
いつ辞めたのかわからないからまあ三十代ってことにして……三十代無職一軒家に一人暮らしって……何者!?働いてても狭いマンションの家賃を払うことすら難しいって人がいるのに。
もしかして親の脛をかじってるの?


「貯金はあるから、この調子で無駄遣いしなければ二十年はもつだろう。しかし五十歳までこのままでいるのもな……」


安芸津さんの寂しそうな視線を辿ると、白く染まった窓に行き着いた。
同じ調子の生活を一人で繰り返す……上司とか義務という外からの影響は受けないし、傷つくことは少ないかもしれない。一時期、そんな生活に憧れた。


けど、現実はそんなにいいことだけじゃないみたい。
安芸津さんを見ると、自分を傷から守ることはできても、苦しいんじゃないかと思った。