私一人になり、静まり返った玄関で考える。


あんらといえば安芸津さんの元カノしかいない。
とてつもない敗北感を隅に追いやって、安芸津さんの対応に腹を立てる。


あれだけ束縛して、今は合わせる顔がないから帰れ?しかも私とあんらさんを置いて……。ないわー、その対応ないわー。


合わせる顔がないというのはわかる。けどあんらさんからきたんだ。ちゃんと対応すべきだし、あんな風に背けられたらまた傷付けてる。


あんな別れ方したし、安芸津さんは長年無職だ。
時間が経って勇気が出ないのかもしれないけど、もうそろそろ腹をくくって向き合うべきだ。


今度あんらさんが来たら無職を引っ張り出す。過去に折り合いをつけるんだ。


無職が待つ部屋に足を進めながら、もしも安芸津さんの娘なのか聞かれても否定しなかったら、どんな反応をしたんだろうと思った。
そんな意地悪なことは言わないけど、もしも笑顔の中の寂しさが増したら……。


いたたまれなくなって激しく首を横に振る。
そして、八つ当たりに一言言ってやろうと敷居をまたぐと、体育座りをして腕に顔を埋める三十二歳の大人がいた。


同情はしない。
残った羊羹を全部口に放り込み、甘々になった口にお茶を流し込む。


「用事があるので帰ります。……あんらさん、また来ますから心の準備はしておいてくださいね」


籠城するかのごとく動かず、返答もない。
流石に深いため息をつき、家から出た。