まるで鏡を見ているように

「俺は佐倉朔夜。フードとマスクは落ち着くからやってるだけだ。不審者じゃないから安心してくれ。よろしく」


 サッと立ってサッと座る。その姿を、私は失礼なほどに凝視してしまった。本人は否定していたが格好は不審者そのものだったからだ。

 制服の上にパーカーを着てフードを目深にかぶり、それからマスクをしている。顔の露出はほとんどなく、フードの隙間から見えるフレームで眼鏡をかけていることが分かるくらいだ。

 顔を執拗に隠している。よほどの不細…、すぐれない容姿なのか。いじめでも受けていたのだろうか。
 でも、暗い訳ではなさそう。

 こんなに目立つお隣さんに、何故気づかなかったのか不思議に思った。


 流石に見つめすぎたのか、目が合った。

 よくわからないけれど、あっちも私の顔を見て相当驚いている。私の顔になんかついていたのか?
 ちょっとショックだ。


「君……名前は?」
「私?私は」


 唐突に話しかけられる。澄んだ声。マスクをしていることを感じさせない、耳に響く声をしていた。

 答えようとしたところで、順番がまわってきてしまった。立つ。


「相馬澪です。双子の妹、雫のおかげで、今日は遅刻しそうになりました。よろしくお願いします」


 特にいうこともなく、名前だけ。椅子に座り、改めて朔夜に挨拶する。


「というわけで私は澪。よろしく、朔夜」
「こんなとこ……なんて」
「え?」
「いや、何でもない。よろしく、澪」

 
 小声で何か言っていた。聞き取ることが出来ずに聞き返したけど、はぐらかされてしまった。