〈じゃあ、今日は行って後悔した?
少しも楽しいことなかった?〉


 指が、止まった。

 今日行って後悔したかって?そりゃ、初めから後悔しまくってた。今でも、もう行きたくないって思ってる。
 街コン自体は全く楽しくなかった。大人ばっかりだし、お偉いさんの接待をする会社員の気持ちが少しわかった気がする。

 でも、少しも楽しくなかった訳ではなかった。黎夜とのおしゃべりはすごく楽しかったし、それについては後悔どころか、姉に感謝してもいいとさえ思ってしまう。


〈もう行きたくない。けど……
今日は行けてよかった、と思う。少しは楽しかった〉

〈それはよかった!
あ、もしかして彼氏でも出来ちゃった?かっこいい人でもいたの⁉〉


 気持ち悪くにやけたクマのスタンプが送られてくる。

 あ、近くにいたわ。これ愛用してる人。


〈そんなんじゃないから!
まあ、かっこいい人はいたけど〉

〈どんな人⁉あーやっぱりそっち行けばよかったー……〉

〈美雨姉はホント、美形には目がないんだから〉


 姉が今彼氏がいない理由がそれだ。
 高望みしすぎてなかなか見つからない。


〈それなら鏡でも見てればいいじゃない〉

〈分かってないなぁ、澪は。
自分が美形だから自分に見合う者を探すんでしょ?〉

〈美雨姉、それ絶対他の人には言わないでよ
ただの嫌味にしか聞こえないから〉

〈それぐらいの分別がつかないほど、あたしはバカじゃないですー〉

〈それは良かった。
んじゃ、おやすみ〉

〈お姉ちゃんを甘く見るんじゃありません!
おやすみなさい〉


 美雨姉、彼氏が欲しいならまずはそのスタンプ変えた方がいいよ。

 心の中で呟いて、携帯の電源を切った。
 視界の端にうつった新しい連絡先に、私は意識しないまま口元が緩んでいた。


 重くなったまぶたから、されるがままに力を抜く。

 そのまま、意識は闇に溶けていった―――。