by 宇佐美 優那

くまさんが、軽トラに、布団と荷物を積んでやって来た。
「安全運転でお願いしますよー。」と、私は、顔を見て笑った。
「一応、JNCAP手動操縦可で免許取ったけど、この車は、現地まで自動運転だから。」
「はいはーい。」

くまさんの下宿に行くのは、これが初めてだ。

助手席に座ると、くまさんが、ちらっとこちらに目をやった。
「ベルト締めて。」
「了解」

すぐに、トラックは走り始めた。
くまさんは、今日は、白い開襟シャツに短パンに、水色のパーカーと、素足に革靴。
私も、白いフリルの半袖ブラウスと、水色のスカート。
「そんな服、持ってたっけ??」と、くまさんが、こちらを見て言った。
「これは、友達から安く売ってもらったの。」
「このピアスは?」
くまさんは、変な顔をした。
「ピアスじゃないよ。マグネット式の飾り。リュウジさんが市販のピアスをリメイクしてくれたの。めちゃめちゃ器用だよね。」
私は、変わらずに笑ってようと思ったけれど、くまさんの顔がひきつっていることに気がついた。

今日の服装のコンセプトは、真珠だった。
くまさんが知ったら、あきれるかもしれないけど、久しぶりにくまさんと外で会う日で、初めてくまさんの下宿におじゃまする日で、久しぶりにバイトが休みで、何かおしゃれしたかったのだ。
フリルブラウスに縫い付けた淡いピンクパールを模したビーズの模様は、リュウジさんが取り付けた。ものすごく丈夫に取り付けてあって、洗濯にも耐えてる。
これも、ビーズの代金だけお支払いした。リュウジさんは、うなじのところの首回りのビーズの写真をブログにアップしたと話していた。

カバンのチェーンは、コットンパールとリボンを模したデザイン。これも、リュウジさん作だ。こちらも、材料費だけでいただいてしまった。
サンダルには、自分でパールを張り付けた。やり方は、リュウジさんに教えてもらった。

3人で買い物に行った時に、ティアドロップの真珠のピアスを見つけた。
「ピアスは、開けたくないけど、これは可愛い」と言ったら、リュウジさんが、「金具付け替えたげるよ」と、さっさと買ってしまった。そして、約束通り、次の日には、金具をマグネットと交換して持ってきてくれた。ピアスの代金と、金具のお金を払った。

まあ、つまり、私は、今日のためにいろいろとお買い物に行って、平林さんとリュウジさんは、一緒に女の子磨く同士なわけだ。

「あいつと付き合ってんの?」と、くまさんは、私の顔をまっすぐ見て言った。
「そんなわけないじゃん。。」私は、慌てて答えて、くまさんの顔を見つめた。

くまさんと、そんな話になったことは、なかった。。
今の微妙な関係を壊すような事は、どちらも避けてきた、。今は、この家族のような関係が崩れる事が怖い。。

くまさんは、ふいと目をそらして、言った。
「何か、めちゃめちゃあいつに挑発された。」
「どういう事?」
「あいつが、お前の男友達のリュウジが、「宇佐ちゃんの周りチョロチョロするな」ってさ。」
「まさか、。」
「俺が嘘ついてるとでも言うわけ??」
「そういう訳じゃないけど、ちょっと想像できなくて、、。そんな事言う理由もないし、。」


「お前さ、リュウジのブログ見てる??」
「あんまり見てないよ。学祭の頃、チラッと見たかな?」
くまさんは、スマホからブログを開いた。学祭の衣装、平林さんと私が、抱き合う姿から、いろんな女の子の写真がアップされていたけれど、思いの外、私の写真が多かった、、。
くまさんは、パールの飾りを見せるためのうなじをかきあげた写真を立体で再生した。
「お前、まずこの写真全部、ネット配信許可してるの??」
「リュウジさん、一回一回聞いてくれてるよ。ネットでアクセサリー販売始めたみたいだよ。サンプル品の展示も兼ねてるんだよ。そのブログ。」
「お前の方があいつのこと好きなわけ??」
「いや、そういうのじゃないけど、リュウジさんのデザインするものは好きだよ。リュウジブランドのファンではあるかも。」

服装は自己表現だ。そもそも今日の服やアクセサリーは、くまさんや、熊谷家の雰囲気に合わせて選んだ。くまさんのお気に入りの水色のパーカーも意識していた。平林さんが、「熊谷は、こういう女の子らしくて、ちょっと上品そうで、ロリッぽいの好きそう」って。リュウジさんも、それならこれ合わせたらいいかなって、いろいろ一緒に考えてくれて。

平林さんの中で、私は、「熊谷の彼女」という位置付けだ。平林さんのお母さんにとって、熊谷さん家は、町のセレブで、「宇佐美さんと一緒」と言うと出掛けやすいそうだ。専門学校生のリュウジさんは、ちょっと警戒されてるらしい。平林さんも、私と同じで、母親にプチ反抗期中だ。

ファッションに自信が持てると、気持ちも明るくなる。リュウジさんと平林さんにおだててもらって、明るい気持ちになっていたものが、何だか見透かされたような変な罪悪感に押し潰される。
調子に乗ってた自分が惨めになる。

「私、可愛くなれてない??その写真、かっこ悪い??」私は、くまさんに言った。
「そういう問題じゃないよ。無用心だろ。この写真、全部位置情報分かっちゃってるし、何か、なぁ」
「私は、問題ないと思ってるよ。リュウジさん、仕事がら女友達多いし、私なんて、センスないから、親切心の無償レクチャー対象者なんだと思う。」

「何かなぁ、エロいんだよ。」

私は、ちょっと腹が立った。

「そのブログ見て、そんな事言うのくまさんぐらいだよ。女の子達、みんな、可愛いねって。女の子にとって、可愛い服やアクセサリーは、心のビタミン剤なの。みんな、アクセサリーや洋服を見たいわけであって、着てる女の子が見たい訳じゃないよ。くまさんの頭ん中がエロいんだよっ。」

「お前さ、、髪上げてうなじ見せて」くまさんの目がすわっている。。
「何で??!」
私が動けずにいると、くまさんは、私の髪の毛をすくいあげた。。うなじの下のパール飾りに手を触れる。。思わず体が逃げてしまう。
「この写真は可愛いよ。俺なんかよりもっとエロい目で見てるやつもいるよ。お前のこと大事に考えないやつも見てるよ。俺に見せられないものを、全世界に向けてネット配信とかおかしいでしょ。俺に見られたくないなら、見ても良い奴にしか見せるなよ。」

「無用心だろっ」と、くまさんは言った。

そうなのかな??!