by宇佐美 優那

「そういえば、、昔、イチゴ狩りに行った時にも、うちの男どもは、優ちゃんに翻弄されてて笑えたわ。あの頃は宇佐美さんちもまだ2人姉妹で、本当に可愛かったのよね。淳子ちゃんはまだ一才で、ずーっとママにだっこされてて人見知りされちゃったんだけど、優ちゃんの方は、義明や熊谷の後追いしてたわ。本当に、積極的な子だねって。熊谷家の男どもは、可愛くてしょうがなかったみたい。義明なんか、優ちゃんのお世話焼くのが楽しくてしょうがなかったみたいよ。優ちゃん、そのまま大きくなっちゃって、何も変わっていないよね。」

うーん。恥ずかしい。

私は、前々から気になっていたことを聞いてみた。

「ひとみさん、何で?前嶋さんと再婚しないんですか?お店にはもう戻らないの?」

「お店には、戻るわよ。再婚は、今は無理ね。すごくバカなことしてるのは分かってるんだけど、、今の私のバランスを、今は壊したくないの。。私はね、演奏する場所は選ぶことにしてるの。自分がミューズになれる場所でしか演奏しないわ。やりたくないことはやらないの。夫が死んでから特に気を付けてる事よ。私が優ちゃんなら、やらないと思うこともあるけど、やっちゃう優ちゃんだから可愛いと思ったりもする。」
「ミューズになれる場所ですか??」
「篤の店は、客層も良いし、唯一熊谷が生きてた頃から演奏してた場所でもあるの。熊谷は、フランスが長かったから、ワインの同好会に参加してて、篤のお父様とは、その関係での付き合いだったの。あの店は、篤の店でもあるけど、熊谷が私を見ていてくれた、熊谷との思い出の場所でもあるのよ。。」

なるほど。篤さんは、大人になるまで店に入ったことがなかったとのことだから、ちょうどすれ違いであの店にいるのだ。。

「私ね、熊谷が亡くなるまでは、奥様に徹してたの。熊谷の顔色ばかりうかがって生きてきて、でも、それが私の幸せで、生き甲斐で。それなのに、突然、自分が死ぬと分かったら、「好きなようにやったら良い」って突き放されたのよ。彼に。1番やりたいことは、彼の奥様なのに。ドラマとか、小説とかで、死にかけの彼氏って、何を話すかしら。彼は、笑顔で亡くなったの。私だけが泣いてた。私と別れることを惜しんではくれなかった。。それがショックで、失恋した気分だったわ。」

ひとみさんは、お腹を撫でた。お腹の子は、女の子だということが分かっている。死が二人を分かつまでと言う。かける言葉はない。今から死ぬ人が何を考えていたかなんて、想像もできない。。

「ひとみさんと熊谷さんも、大恋愛だったんですね。。」

「初恋ね。」

「日本に着いてきちゃうくらいだもんね。結婚して外国に着いていくとか、すごい素敵だけど、ひとみさんは大変だったんだろうなあって。」

「私はね、大ばあ様が日本人学校の出身だったの。太平洋戦争後の日本人学校。それで、子どもの頃から、因幡の白兎のお話を何度も何度も聞かされて育ったの。だから、熊谷みたいな純粋な日本男子に憧れがあったのね。おばあ様や、お母様は、また違うのよ。私だけ大ばあ様になついてたから、熊谷も、私にノスタルジー感じてくれたみたいね。大和撫子より大和撫子って、調子にのせてくれたわ。それで、口説きおとされちゃった。」

ひとみさんは、幸せそうに話した。

「大和撫子っていうの、分かります。」

「因幡の白兎のお話だけど、あの話には、ロマンチックな続きが有るのを知ってる?」
ひとみさんは、大おばあ様が話した、女の子のための因幡の白兎のお話を、話してくれた。