by 熊谷 義明

宇佐美の奴、今度は、バスの中で寝落ちした。。

宇佐美もおかしいが、今日は、自分もどこか調子がおかしい。平林の件で緊張したからかもしれないが、体が高ぶっている感じだ。
多少状況を誤解したかもしれない。
おっちゃんたちには、悪いことしたかもしれない。とは言え、酔っぱらって周りが見えなくなってるのだって悪い。

すっかり自分のペースを崩してしまい、バスの中でも、四六時中おかしいまま立ち直れずにいた。

宇佐美の顔を見て、恥ずかしいこと言っちゃった時、その瞬間。宇佐美の顔が熱をはらんで、伏し目がちのまつ毛が艶やかに濡れて見えた。

不覚にも、相手の反応につられて欲情してしまった。。

しまった。俺、すごいこと言っちゃってる。
でも、あの顔は反則でしょ。
自分は言って良いけど、俺はダメなわけ?

そもそも、ライブ自体、ちょっと刺激的だったと言わざるおえない。俺がバカなこと口走ったのだって、それにつられたわけだが、、

彼女を抱えて走っていた時には気にしていなかったし、俺自身えらいこと口走っちゃったときも、何もそんな気はなかった。元々、あからさまなのは好みじゃない。

宇佐美の顔が紅潮した時、彼女の腰に回した手の感触が、急にリアルに感じられた。。そこには、滑らかな女の腹の感触があった。
布1枚か、2枚だろうか。。思わず、その感触を確かめてしまってから、また、ハッとした。手に力が入る。上にも下にも手を動かしてはいけない。

宇佐美は、周りに流されやすい。
一見、彼女が発言を変えているように解釈されがちだけど、強引な奴に流されて、我慢の限界という時になってもがきはじめる。

男女の話だけではない。女子同士やんやんやってるのを端で見てて、また、流されてると思ってた。あゆみでも、平林でも、絶対にそこでは流されないと思う。
うつむいたまま、ごめんなさいと小さな声で言うので、ちょっと言い過ぎたかと後悔した。
しおらしいと、あゆみが言ったが、確かにこういうのには、弱いかも。

が、、ところがだ。宇佐美はうつむいたまま俺に体を預けて寝落ちしてしまった。あり得ないだろ。。

あゆみの言葉が、頭の中でリフレインする。
「本当に、何も考えてないだけだよね。」
「宇佐ちゃん計算高い子かも。」

こいつに欲情した自分が、ちょっと滑稽でバカバカしくなる。その反面、これが計算高さなら、口説かれてみたい気もする。

(計算なわけないか、、。)

やむおえず、また、宇佐美をかついで帰ることにした。

「兄ちゃん、彼女大丈夫??体調悪いの??」バスの運転手さんに声をかけられた。
「その、、寝てるだけです。家族なんで、家に連れて帰ります。すぐそこだから。」
「兄ちゃん、がたい良いね。」運転手さんは笑った。