by 柳瀬 隆司

本番前の練習の後も、宇佐ちゃんは、大慌てで帰っていった。
「あのさ、あれ、こないだの男、あのくまさん、何だと思う?」と、俺は平林さんに聞いた。
「わっかんない。」彼女は答えた。
「知り合いだって言ってなかったっけ??」
「ずいぶん会ってなかったよ。10年ぶりくらいじゃないかな。小学校3年生まで一緒にピアノの発表会に出てたの。熊谷君は、自分のお母さんに習ってたけど、熊谷君のお母さんと、うちの先生と、5件くらい集まって発表会してたんだよね。発表会だけじゃなくて、何かといろいろ行事が一緒だったの。」

「家に置いてもらってるって言ってたよな。いつも宇佐ちゃんが大急ぎで帰ってくのって、その辺が理由なの?」
「知らないけど、バイトだって言ってたよ。彼氏はいないみたいなこと言ってたけど。」
「宇佐ちゃん、あん時、あいつのこと、彼氏じゃないって言ってた。バイトって、何やってんの??あいつ、門限がなんとかって言ってなかった??」
何だろう。。むくむくと、悪い想像が膨れ上がる。

「あのさ、、実はさ、熊谷からも電話がかかってきたの。あの次の次の日。」
「それで??」
「サークルのこととか、バンド仲間のこととか、あと、リュウジのこと聞かれたよ。」
「平林さん、ペラペラ教えちゃったわけ??」
「ネットにアップしてる程度の事をね。その、リハーサルの時の写真、思いっきりアップしてるでしょ。リュウジがメイクして、服作りましたみたいな奴。あいつに隠し事なんかできると思わない方がいいよ。電話してきた時には、あいつ、あの写真のこと知ってた。」
ストーカーかよ。。

「あいつ、パソコンオタクでちょっと怖いんだよ。パスカード破っちゃったりする系」
「ヤバイ奴な訳?」
「どうだろう。。すごく、おばちゃんキラーだったよね。。うちの母さんなんか、私より熊谷君見に発表会行ってた。ピアノはすごく上手だったし、何か、女受けしそうな服着てて、可愛かったんだよ。小さい頃。。すごい大きな家の坊っちゃんでさ。確か、お父さんが大学教授だったんじゃないかな。。あと、空手だか柔道だかめちゃめちゃ強いらしいから、絶対に暴力で挑もうとは思わない方がいいよ。」

「そんなこと、俺がするわけないじゃん。。」

平林さんは、いろいろと教えてくれたが、何か、嫌な想像ばかり膨らんでしまった。

「宇佐ちゃん大丈夫かな、。」
「らしくないね。リュウジって、こんな他人のこと口出しする人間だったっけ。。」
「平林さんこそ、平林さんが宇佐ちゃん誘ったって聞いたよ。俺、平林さんは、やりたいことあっても、最後まで言わないまま卒業すんのかと思ってた。」と、俺は、言った。

「あの子、何気にうまいじゃん。」と、平林さんは言った。「演奏だけじゃなくて、セッションがうまいと思うんだよね。。」
「それは、分かる気がする。一緒に居てくれるとほっとすると言うか。よく周りの音、聞いてるよね。」

「そういや、ライブの日に迎えに来る同級生って、あいつかな??」

「それは、、宇佐ちゃん本人に聞いてみれば??」
と、平林さんは、言った。