「お前、悪いな。。」話を聞き終わったくまさんは言った。
「つまり、不適切な経費だったかもしれないうえに、年齢詐称だろ」

「わざとじゃないよ。婚約とかそんな話になると思ってなくて。」
「軽い気持ちで嘘ついたらとんとん拍子に話が進んで、取り繕いきれなくなったんだろ。」
「短くまとめるとそういうことになるけど、何度も止めようとしたし、話そうとするたびに邪魔が入っちゃって。」
くまさんは、人のよさそうな顔を曇らせた。
「あのおっさんが可哀そうになってきたわ。俺、最悪じゃん。」
「でも、あん時、助けてくれなかったら、何されたか分からないよ。私。。」
「そりゃ、詐称しちゃったら大人に見えたよ。俺も高校生だとは思わなかったもん。暴力反対だけど、やられちゃったって文句言えないでしょ」
「やらしいよ」
「年齢査証して、あんなかっこであんなところいたら、やらしいでしょ」
「くまさんもね。私、今までくまさんってこんな人って知らなかったもん。それに、あれ、忍術かなんか?あの突然ひらひらって動くやつ。」
「ひらひらってなんだよ。。分からないよ。」

私は、こないだ、あの背負い投げ?が決まる前のくまさんの真似をした。

くまさんは、ちょっと引きつりながらそれを見ていて、変な間の後、噴出した。
「ちょっと何言いたいか分かったわ。」「あれは、柔道。親父がフランスで若いころ柔術やってて、強かったらしい。俺は、近所にすごいいい柔道場があったから、稽古に通ってたんだよ。」
「くまさん、武闘派だったんだよね。全然知らなかったわ。」
私も笑った。
「頭に血が上ってる相手にも、怪我はさせない。相手の体も、自分の体も、守り切る。俺、虫つぶすのも嫌いなんだよ。殴るのも蹴るのも嫌いだし。柔道は、打撃がないからやってた。そんな好戦的な人間じゃないよ、俺。」
「それに、お父さん、フランスって、お父さんはフランス人??」
「いやいや、日本人。フランスからカナダにわたって、ひとみに出会ってる。」
「何か、すっごいロマンチックな愛の結晶なんだね」

「やっぱ、お前、エロイだろ。」
「どうしてそうなんのかわかんない」
「男と女がいて、愛とかなんとか言っちゃうとエロイんだよ。簡単にそういうこと言うなよな。言っとくけど、俺は23までそういうのなしだから。ひとみに言われてんだよ。23までは、彼女じゃなくて友達増やしなさいって。」
「ひとみさんは、、ひとみさんは美魔女だけど、くまさん年齢より上にみえるじゃん。23になったらおっさんになっちゃってるかもよ。何か、今でもおっさん臭いこといろいろ言ってるし。」

変な間があった。
くまさんとは、ずっと同じクラスだったのに、こんな話をしたのは初めてだ。
「どうすんだよ。あのおっさんに言っといてよ。くまさんは、ちょっと落ち着いてほしかっただけですって。酒の席のことだし、ホント、ちょっと場を収めたかっただけで、あとのことは分かんないから。」
私は、ぷーーっとふくれた。
「最低。」

「助けてもらえて、嬉しかったんだよ。」っと、私はむくれた。
必死な自分と、首をかしげる自分が、両方とも心の中にいた。??
「ホント、行くとこないんだよ。可哀そうだよ。可哀そうだよね。まだ高校生なんだよ。」無茶苦茶だ。私って、こんな子だったっけ??
でも、ママのいる家に、ただいまって帰れる子だったら、こんなことにならなかったかもと思うと、本気で自分が可哀そうになってきた。

今、澤谷さんと話したくない。というか、言うことは言ったんだから、
こちらから話すことはない。
実家だって自分が帰れる場所じゃないし、
今、澤谷がいつ押しかけてくるか分からない場所で、一人で生活するのは嫌だ。
「大学受かるまででいいよ。絶対現役で受かるから、後は、バイトでもなんでも自分で何とかするし、ちょっとでいいんだよ、ちょっとだけ。。」
だめだ。泣けてきた。。
「追い出さないでよ。。。」

その時、くまさんの目が泳いだ。
「くまさんさ、洋治が最近ついきあい悪いって。こういうことだったんだ。。」
あゆみだった。
「こういうことじゃあないんだけどなああ。」
「何がないのよ。思いっきり女の子泣かしちゃってんじゃん。」
「そうだよ。助けてくれたときは、本当に、本当にうれしかったんだよ。もう元には戻れないんだし、最後まで責任とってよね。」
私は、くまさんだけに聞こえるようにか細い声で、でも、必死に叫んだ。

くまさんは、、頭を抱えてかがみこんだ。
心の叫びが聞こえてきそうな状況だったけど、くまさんは、滅多なことでは叫ばない人だった。私と違って。