「うーん…。」
真夏の深夜、内田茉莉子(うちだ まりこ)は目を覚ました。
「あれ?いつの間にか…寝てた?てか、今何時?確か掃除をして、夕方に一休みして…」
茉莉子は回らない頭をフル回転させ、手探りでスマホを探す。
誰もが経験があると思うがうたた寝のつもりが何時間も寝てしまい、“え?もうこんな時間?何時間寝てたの?”とビックリし慌てること。茉莉子も例外ではなく見つけたスマホを見て頭を抱え
「あちゃー。やっちゃった。1時っていくら何でも寝過ぎだよね…。疲れが溜まってるのかなぁ?」
と苦笑いしながら呟いた。
茉莉子は医療メーカーの営業をしている。色々な病院を回り、医療機器を紹介している為、夏は炎天下の中歩いていつも以上に体力の消耗が激しい。
「寝てしまったものはしょうが無い。お風呂でも入ろうかな?」
と、また呟き、電気を点ける。煌々と光を発する電気に目を細め、浴室に向かった。茉莉子が住んでいる部屋は家族向けの3LDKのマンションだ。リビングから浴室までは廊下を歩かなくてはならない。冷房が効いた部屋から廊下に出るとムッとした熱気が茉莉子の体を包む。顔を顰めながら浴室の扉を開けると目の前には洗面所の鏡があり茉莉子の姿を写した。鏡に自分の姿が写るのは当たり前だが茉莉子は苦笑した。普段、バリバリのキャリアウーマンで、大学時代にはミスキャンパスにも選ばれたこともある美人でスタイルもちゃんと出ているとこは出ていて、引っ込んでいるとこは引っ込んでいる。つまりはスタイル抜群の美人なのだ。しかし、“今”はどうだろう。冷房が効いていたとはいえ、季節は夏。うたた寝の間に汗をかいていたらしく化粧はグチャグチャ。さらに長時間寝ていたせいで髪もグシャグシャ。さらに部屋着だった為、出身地である“広島ぶち好きちゃ”と書かれたTシャツともの凄く残念な服装である。
「ちゃんとしたら美人なのに。」
と本人も美人と自覚しているようだ。
浴槽にお湯を入れ、涼しさを求める為にいそいでリビングに戻る。リビングに入った途端、廊下に出た時とは逆で涼しい風が茉莉子を包む。ふぅーと息を吐きながらテレビのリモコンに手を伸ばし、電源を点けた。あちこちチャンネルを変えるが時間が時間な為、司会が大げさ過ぎる通販番組、神妙な顔で原稿を読むニュース番組くらいしか無かった。
「やっぱり良いテレビやってないよね。テレビ君、しっかりしなさいよ!」
と眉間にシワを寄せながら言う。テレビにとってはとんだ言い掛かりだ。