また、あした…


山代くんの言っていたこと、本当だったんだ。


彼女…


いたんだ…


そう思ったら急に、気持ちも身体も重くなって

なぜかテンションが下がってゆく自分がわかる

どうしちゃったんだろう私

立っていられないくらい脚もフラフラになって、なぜか視界が滲む

こんなの初めてで

とにかく、早くこの場から立ち去りたいって思って振り向いた時だった。


「奈々瀬!?」


セイカくんも私に気づいたのか、うしろから声をかけてくれる。

私は聞こえない フリをして、少しづつ離れようと歩きだした。


「何してんだよ!」


私は振り向かず、そのまま前に進みながら
答えた。


「見るつもりはなかったんだけれど…」

「待てよ!、何言ってんだよ」

「ごめんなさい…それじゃ…」


走り去ろうとした私の左腕が、セイカくんに掴まれた。


「別に奈々瀬があやまることないのに…何か勘違いしてない?」


セイカくんは私の手首を掴んだまま、離さないでいる。


「…」


「さっきの人なら…オーナーだよ」


私はそれを聞いて立ち止まり、ようやく振り返るとセイカくんの目をみた。


「オーナー?」


「ほら、そこの店の…」


セイカくんが指を指したお店の看板を読んだ。


『カフェ・My Little Love』


「!?カフェ…マイリトルラブ…」


「バイト…始めたんだ…」


「バイト?…あ…そう…」


「ところでさぁ」


「は、はい?…」


「奈々瀬、目が真っ赤…泣いてたの?」


あ…なんで?…

泣いてた?…

私が?


「あ…これ…花粉症かな?…」


「…そっか…ならいいんだけど…」


「は、ははは…」

恥ずかしい…


「なあ、奈々瀬?」


「え…な、なに?」


「ここでバイトしていること、誰にも言わないでほしいんだ…」


セイカくんが、思いきり私に近づくから…

また、緊張しちゃう…


「…う、うん…」


「サンキュー!奈々瀬!…あ、バスの時間がない!俺、もう行くわ!」


「バイバイ…」


私に背をむけながら、歩き出すセイカくんが…


「ふたりだけの秘密ッ!じゃ、気をつけて帰れよ!…」


そう言い、走り去るセイカくんの後ろ姿を、いつまでも見続けていた。