女子トイレ内ーー


鏡の前に立ち黒縁のメガネを外すと、つり上がった細く長い眉を書き直し、ビューラーでまつ毛を整えた。

そして、口もとが少しつりあがると、リップで紅く飾られたくちびるが、小さく尖がった。


…今まで我慢してきたのよ…

あなたしかいないの……

高吉くん…



セミロングの少しウェーブのかかった黒髪を櫛で梳かしていると、鏡に映った茶髪のストレートの髪が目に止まった。…


しばらく鏡越しに睨みあうふたり



「まじ極めして、これからデートでも?」


龍咲夏魅(りゅうざき なつみ)は振り向き、雅 桜依(みやび るい)に詰め寄り、顔を至近距離まで近づける。

「べつに…
あたなこそ、イロケ出しまくりで、そうとう!…飢えてそうね!」


「むっ!…相変わらず嫌みだけは上手いこと、三年前から変わってないわね!そんなだから彼にフラれたのよ!」


「ふッ…
フラれたあなたに…言われる筋合いはないわね」

夏魅はメイク道具をしまい、トイレから出ようとしたとき、桜依のうすら笑いが聞こえてきた。

「ふふふ、はははは…」


夏魅はおもむろに振り向き、桜依に向かい


「なにが可笑しいの?…
それとも、とうとう本当に、頭がおかしくなったのかな?」


「ふん!そんなに気合入れても無駄ッ!
聖火は誰にも振り向かないわ!もう二度と…
ある女性以外はね…」




「…ななせ…こうめ…」



そう言いながら振り向き、夏魅はトイレから出ていってしまった。