海猫の鳴き声と、海の波打つ音が聴こえる。

 海面はオレンジ色に煌めき、海をより一層美しく飾った。

 私達は堤防で海に沈んでいく夕陽を眺めていた。





『ねぇ……水乃ちゃん』



『何?』



『……もしかして、だけどさ…』



『…………』



『あの時の約束…覚えててくれた?』





 凪の不安そうでいて、どこか期待の含まれた声。

 だけど凪から紡がれた言葉は、私と同じ不安と期待。

 さっきまで景色を見ていた私は嬉しさと驚きで凪を視界に入れる為に振り返る。





『なんだ、凪も覚えてたの……』



『……忘れる訳ないよ……』



『なら、私は忘れてたと思ってた?』



『あ……その……』



『図星か……』



『えっと……ごめん』



『別に良いよ、私だって海に行きたかったのは受験前の思い出作りだし……
条件として凪の名前が挙がらなければ約束も思い出せなかったわ』



『……そっか』



『何よ……迷惑だった?』



『え……?』



『随分前の約束を今引っ張り出されて……迷惑だった?』



『そ、そんな事ないよ!むしろ……』



『むしろ?』



『嬉しかった……
思い出してくれて……』



『そ、そっか……』



『でも……』



『え?』



『少し……悔しいかなぁ……』



『……はぁ?』



『う、ううん!別に良いんだ、気にしないで!』



『ふーん……』



 少し悔しいと言う割には、あまり悔しそうな顔はしてないわね……。

 照れくさいのが上回っちゃったのかしらね……。





『……ねぇ、水乃ちゃん』



『何?』



『今度は僕が……約束果たすから、また一緒に行ってくれる?』



『今回で充分じゃないの?』



『ううん、僕がちょっとだけ意識出来てなかったと言うか
納得出来てなかったみたいというか……
 お願い、今度は僕から誘わせて』



『……好きにすれば?』



『有り難う!!
 約束だよ……』



『っっ!!
 ……ふん』





 本当に嬉しかったのか、凪は満面の笑顔でしばらくの間上機嫌だった。
 私は私で凪とまた一緒に海に行けるという嬉しさと相まって顔が緩むのを止められなかった…。





 その後はもう道に迷ってしまって、ようやっと家に帰れると思って乗った電車は最終電車だった。

 あの後、駅まで迎えに来てくれた母は心なしかいつもより少し怖かったなぁ。

 家に着いた後もお父さんが怒ってたっけ。

凪が怒られた時、思わずお父さんと喧嘩しちゃったなぁ。

 そういえば、あの後から凪が敬語で話す時が増えたな……。