夏樹を反省させたところで、ようやく学校に行くことが出来る。

私たちは学校には徒歩で通っている。

自転車の方が速く、遅刻する心配も少なくなるのだけれど…。

ちらっと莉亜の方を見る。


「…?」


目が合うと不思議そうにしながらも、天使のような笑みを浮かべてくれた。

可愛い。

そんな莉亜の最大の弱点は、運動が壊滅的に出来ないことだ。

そう、自転車も乗れないほどに。

5月の上旬に行われたスポーツテストで50メートルのタイムを計ったところ、11秒04だったらしい。

本人は縮まったと喜んでいたけど。

まぁ、そういう事情もあり、徒歩で通っている。

他愛ない話をしながら3人並んで歩き出す。

話す内容は至って普通。

寒くなってきた、とか。

もうすぐ文化祭、とか。

だけど私たちは幼馴染。

どうしても昔の話題が出てしまう。


「ねー、覚えてるー?
小5の時の音楽祭ー」


っっ、

嫌な汗が背中を伝う。


「あー、あん時のか…って!
その話は持ち出すんじゃねぇっ!」


夏樹が焦りだした。

そんな夏樹を見て莉亜はニヤニヤしながら続ける。


「いやー、あの時は本当に焦ったよねー。
ナツちゃん、一番大事なソロの時にミスっちゃうんだもん」


話しているのはどうやら夏樹の黒歴史らしい。

どこか他人事のように2人のやり取りを見ていたら


「ねー、葵。
ナツちゃんすごく面白かったよねー?」


急にこちらに話を向けられて夏樹の比じゃないほど焦る。

もちろん、表には出さないけれど。


「えっと、ごめん。 覚えてないや」


適当に話を合わせる訳にもいかず、覚えてないと口にすれば、


「そっかー、残念ー」


しょんぼり、という風に肩を落とした莉亜。

…今、一瞬だけど莉亜が辛そうな顔をした気がした。

だけど気のせいだったらしい。

だって今はおどけたように笑っている。


「…ていうか、何でそんなこと未だに覚えてるんだよ」


そんな莉亜に対して夏樹が呆れたように言う。

そして話題は他のことへと変わっていった。

…良かった、なんとか誤魔化せて。

ほっ、と安堵する。

その度に罪悪感が押し寄せてくる。

けれど、仕方がないと自分を正当化することでそれから目を背けた。

そうして、いつものように話をしているうちに目的地である学校に着いた。