「あっ!」
雪斗が思い出したように声を上げた。
「どうしたの?」
「やべー。スマホ忘れた」
「え!どこに?」
「んー、ロッカーの中かも」
「えー。何してんのさー」
「悪ぃ。ちょっと待っててくれる?すぐ取ってくるから!」
「えっ!あっ、ちょっとー」
もぉ。⋯しょうがない。待ってるか。

グラウンドでは太陽が照らす中、熱帯の動物のようにいろんな部活生徒が走り回っていた。
中にはサッカー部もいる。
「あ。新斗と陸也…」
サッカー部は練習試合をしてるらしく新斗と陸也が同じゼッケンを着てボールを追いかけていた。
「あっ!」

2人を目で追いかけていると新斗が派手に転んだ。
私が駆け寄ろうとする前に近くにいた先輩と思われる人が新斗を起こした。
「あれって…己龍くん?」
よく見ると優しそうな顔で新斗を起こす己龍くんがいた。

「己龍のこと知ってんだ」
…えっ!

声のした方を見ると新斗たちとおなじゼッケンを着た人が立っていた。
その人はタオルで頭を拭きながら私を見ていた。
「あっ!あなたは確か…」
確か、学校一のイケメンで有名な…
「なに、俺のことも知ってんの?」
彼は笑ったように聞いた。
「えっと、桐矢来斗さん?」
「おー。正解。つか何で知ってんだよってな。怖ーよ」
来斗さんの笑った顔はすごくかっこよかった。

「え、だって学校一のイケ…あっ!」
自分で言いかけて顔が赤くなった。
「な、何でもないです…」
「ははっ。面白いねー。神田美鈴ちゃん」
笑われた…。
うぅ、恥ずかしい…。
って、え?私の名前を知ってる?
「なんで名前知ってるかって?」
「え?」
バレてる…?!
「全部顔に書いてあるよ」
え!うそ!私は手で顔を覆った。

「嘘だって。なんで知ってるか教えてあげようか?俺が有名なのと同じで、キミも結構有名だからだよ」
え?私が?
「私が有名…?」
「うん。だって、去年、すっごい美少女入ってきたぞーって学校中で広まってたから」
「えっ!美少女?!」
私が美少女?!
そんなわけなくない?

「それは、気のせい?人違い…じゃないですか?」
「え?じゃあ、キミは神田美鈴じゃないの?」
「いや、私は神田美鈴ですけど」
「なら、キミが噂の美少女だよ」
「学校一なんて、そんな…」
「美鈴ちゃんすっごい顔赤いよ」
「えっ!ウソっ!」
私はまた顔を覆った。
いじわる…。

それにしても女子の扱いに慣れてる人だなー。
なんか、チャラそう…。
彼女とかいるのかな?

「そうだ。紙とペンある?」
「へ?あ、えっとー、どうぞ」
私はポケットに入っていたメモ帳とペンを渡した。
すると来斗さんは何かを書いて私に渡した。
「はい」
「え?」
メモを開いてみると…
「それ、俺のケータイのアドレスと番号。もう少しキミと話したい。もし良かったら追加して。じゃ」
そう言って来斗さんは手を上げて行こうとした。

「よう!」
「おー!雪斗!」
後ろを振り返って話し始めた。私も後ろを向くと雪斗がいた。
「部活中ー?」
「そうそう。今休憩中♪」
「そうなんだー。俺今日は帰る〜♪」
「そか。んじゃ、また明日」
「おう。頑張れよ。ほら、美鈴帰るぞー」
「え、あっ!待ってー!」
来斗さんにペコッと会釈をして雪斗を追いかけた。